2012年6月20日水曜日

夏至




「ほたる」が見られるというので
とある場所へ連れて行ってもらった時のこと。

真っ暗な林(薮)に向かう道の入口に車を止め
なだらかに傾斜した土の道を歩く。
横はとうもろこし畑だ。

道のない所まで来て
案内人は
この先だというのだけれども
あまりの薮と闇で
すぐに子供は「もう、いいよ」と言い
実際私も恐ろしく
諦めて引き揚げる。

「ほたる」を見たいというパッションは
暗い道を進むたびにどんどんしぼんでいって
そこに着いた時には
口に出せない恐怖とすり替わっていた。

戻る際に
ふっと薄明るいとうもろこし畑に
目をやると
何も見えないのだが
何かがいてもおかしくない気配がして
空恐ろしくなった。

子供は熊が出るのではないかという恐怖を抱き、
私は異界の恐怖を感じた。

怖がりな母子だ。

夏至はとうに過ぎたある夏の夜のことだったけれども
夏至というと
あの気配を思い出す。